「さらばだ……俺の最初で最後の友よ……」
見開いた目に映ったのは見慣れた自宅の天井だった。夢から目覚めたルーナの額にぶわりと汗が浮かぶ。己の荒い呼吸に忌々し気に悪態を吐く。あの緋色の空の夢を時折見た。己を友と呼び、自らの首に刃を立てた男の夢だ。あの狂った青い目がルーナの心を乱して止まなかった。
寝台から起き上がり外へ向かう。しんと冷えた夜の空気にほっと息を吐いた。だがまた一瞬浮かび上がった男の顔に足早に庭の井戸へと向かう。桶を持ち上げるとその中身を頭から被る。全身を突き刺す冬の水の冷たさに震えたが、熱のこもったこの身には十分な薬になった。
「何をしているの」
女の声に振り向く。呆れたような、心配するような、そのどちらともとれる声色だ。
「レディ、起きていたのか」
「起こされたのよ。どこかの誰かがこんな時間に外に出たから」
青い髪を指で弄びながら、アウラ・ゼラの少女はため息を吐く。ルーナが彼女と出会った経緯は省くが、ルーナと少女はいわゆる師弟関係にある。とはいえ留守がちなルーナはそれほど熱心に彼女に呪術の教育をしているわけではないし、エオルゼアの習慣に疎い彼女の面倒を見ているのは主に留守を任せているセバスチャンだ。そのためか少女の態度は弟子然としたものではないし、ルーナもまた同様だった。少女――メルコレディ、通称レディは一度家の中に引っ込むと、布を手に戻ってきた。それをばさりとルーナの頭に被せ……ようとして手が届かなかったので彼の腕に押し付ける。
「風邪をひくわ」
ルーナは苦笑するとびしょ濡れの顔を拭った。まっすぐに見上げてくるこの少女の目にはいまだ慣れない。
「……まだ何かあるのか」