好きってなんだろう。恋ってなんだろう。そんな思春期のガキみたいなことを、俺は未だに考えてしまう。
女の子から「好き」と言われて付き合ったことは何度かある。その度俺はその相手の子が喜ぶよう色々頑張ってみたつもりだったけど、大抵「ヴェネルにとって私が特別だと思えない」とフラれてしまった。俺の何が駄目だったんだろうかと悩んだ夜も何度もあったけど、答えはその子達が既に出していた。
──『特別』
親父とおふくろみたいな、心からお互いを想い合うことだってのは分かってる。けれど、確かに、それなら俺にとってあの子達は特別ではなかったかもしれない。それなら申し訳ないことをした、なんてまるで他人事のように思う時点で俺はやっぱり駄目なのだ。
セツゲンと出会ったのはコスタ・デル・ソルの浜辺だった。その日俺は久しぶりのラノシアと心地良い天候に浮かれながら釣り竿を手にリムサ・ロミンサ発の船便から降り立った。黒衣森に越してからもうすぐ五年、しがない一般人である俺がこうやってラノシアまで来るだけでも一苦労だ。
魚影を探して静かな岩陰の方に向かうと、流れ着いたらしい荷物が点々と転がっていた。そういえば数日前嵐があった。そのときにどこかの船から落ちたのかな、なんて呑気に思った。……大きな影が浜辺に伏している。よくよく見れば人だったそれに俺は大慌てで駆け寄った。それがセツゲンだった。
聞けば件の嵐のせいで船から振り落とされ、必死に泳いできたらしい。いや、とんでもねぇ体力だな。侍の修行のため遠くひんがしの国からエオルゼアにやってきたが、ほとんどの荷物は流され当面の資金もない。どうしようかとしょんぼり項垂れる様子に俺はなんとかしなきゃいけない気持ちになって、ひとまず家に来たらいいと提案した。俺の親父は霊災で家や家族をなくした人の支援もしていたからひとり増えたくらい問題ない。何度も頭を下げて感謝するセツゲンに、でかいのに腰の低いやつ、となんとなく面白くなったのを覚えている。
それからしばらくうちで過ごしてエオルゼアのことを色々学んだあと、セツゲンは冒険者の登録を済ませ旅立った。大きな背中を見送るのがいつになく寂しかった。……直後、ウルダハから来た怪しげな商人に絡まれているところを見つけてひとりで行かせちゃいけないと思い直したのだけど。
そうして俺も冒険者ギルドに登録して、短い間だったけど一緒に旅をした。俺もセツゲンも初めてのことばかりで、毎日が大変で、でも本当に楽しかった。親父のことが心配だったから一度別れて俺は家に戻ったけれど(そういえばそのときに親父があのエレゼン野郎を家に連れ帰っていたんだった。あのときはやけにぼろぼろだし記憶はないし、大変だったな)、その後も時間を作ってはセツゲンとは会った。大きくて、力も強くて、でも優しくて。馬鹿に真面目で人を疑わない、俺はそんなセツゲンのことが放っておけなくて──間違いなく──『特別』だった。
例えば、俺を好きだと言ってくれた女の子達みたいに手を繋いだり、キスをしたり、そういうことをしたいとか……ではないと思う。でもそばにいると自然に笑顔になれたし、いつだって浮足立つみたいな心地でいた。俺も好きだったし、俺のことを好きだと言ってくれれば本当にたまらない気持ちになった。
だから今、見たことのない甘い顔をボタンに向けるセツゲンの姿を見て、どうしようもなく寂しくなるのだ。俺達はなんにも変わってないはずなのに、遠く離れてしまったみたいだ。
ああ、好きってなんだろう。恋ってなんだろう。
見つけたはずの答えが、さっぱり分からなくなってしまった。
初出:2022/11/15